リサーチパーク鶴だより -第9便-
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【はじめに】
春が訪れ、日射量も増えてきたことで、1年で最も高収量が望める時期がやってきました。高収量のために大切な要素はたくさんありますが、今回は「植物の吸水」と「給液EC」についてご紹介いたします。
前回の第8便のリサーチパーク鶴だよりでは、「日射比例の給液」についてご紹介させていただきました
( https://www.seiwa-ltd.jp/useful/3350/ )。そちらも合わせてご覧いただけますと幸いです。
【ECとは】
ECとは電気の流れやすさを表しています。水に溶かした肥料はイオンとして存在しており、水中に存在するイオンの量が多いほど電気は流れやすいです。つまり、ECが高いということは、肥料の濃度が高いということを表します。 (純水では電気は流れません)
養液栽培ではこのECを肥料濃度の指標としています。(図1)
給液の成分について詳しく知りたい方は、第5便の鶴だよりの「成分分析について」をご覧ください。
( https://www.seiwa-ltd.jp/useful/2842/ )
図1:「肥料が溶けていると電気が流れる」の図
要点:ECが高い
→電気が流れやすい
→より多くのイオンが含まれている
→つまり、より多くの肥料が溶けている
注意:給液中には植物の肥料となるイオン以外も入っています。それらのイオンも合わせた
合計値がECなので注意が必要です。
【ECとは (余談:ジーメンス(S)とは)】
私は栽培を始めた当初、ECの単位である「mS/cm」に含まれているS:ジーメンスって何だろう?と思っていました。この、Sが何なのか分からなくて、ECが難しく感じる方がいらっしゃるかもしれませんので、Sについて簡単に説明させていただきます。
みなさん電気抵抗Ωはご存じかと思います。電気抵抗が小さければ、電気が流れやすく、大きければ電気が流れにくいです。ではこの電気抵抗の逆数を取るとどうなるでしょうか。電気抵抗の逆なので、小さければ電気が流れにくく、大きければ電気が流れやすいです。この電気抵抗の逆数こそ、「S:ジーメンス」です。
したがって、このジーメンスが含まれているEC=mS/cmは、小さいと電気が流れにくく、大きいと電気が流れやすいことを表すのです。
【植物の吸水について】
植物の吸水は「受動的吸水」と、「能動的吸水」の2種類に分類されます。
まずは受動的吸水について説明します。受動的と聞くと、根自身は特に何もしていないようなイメージを持たれるかもしれませんが、そのイメージはおおむね合っています。では、何が受動的吸水を引き起こしているのでしょうか。それは「蒸散」です。蒸散によって、葉から水が放出されます。すると、連鎖的に水が移動していき、その水の移動によって根から水が引っ張られることで、吸水が行われます。この吸水を受動的吸水と言います (図2)。
蒸散の機能については、前回の鶴だよりにて説明しております。そちらもぜひご覧ください
( https://www.seiwa-ltd.jp/useful/3350/ )。
図2:「受動的吸水」のイメージ図
次に能動的吸水について説明します。能動的と聞くと、受動的とは反対に、根が何かしているような、頑張っているようなイメージを持たれるかと思います。そのイメージ通り、能動的吸水は根自身が培地から水を取り込むことによって行なわれます。そして、この能動的吸水には、培地内のECが大きく関わってきます。
【培地内ECと植物の吸水】
培地内のECと根の能動的吸水にどのような関係があるかを説明していきます。図3は、左が根の内部のECが5で、培地内の培養液のECが1だった場合、右が根の内部のECが5で、培地内の培養液のECが3だった場合を表しています。注目してほしいポイントは、根に流入してくる水の量です。左はたくさんの水が根の中に入ってきていて、右は左に比べて根の中に水が根の中に入ってきにくくなっています。なぜ、左と右でこのような違いが生じるのか説明します。
図3:培地内ECと根の吸水
根の中に水が入ってくる原理は、根の内外の浸透圧の差つまり濃度 (EC)の差です。濃度の低い方から高い方へと水が移動し、濃度差が大きいほど、移動する水の量は多くなります。仮にですが、根の内部の濃度が、根の外部よりも薄い状態だと、根から水が抜けていき、植物は枯れてしまいます (塩害など)。少し話がそれましたが、左と右で根に流入する水の量が異なるのは、根の内と外のECの差が原因です。
植物にとって適正な給液ECは「作物の品目」や「季節」によって異なります。
一般的には、適正ECよりも低いECで給液管理をすると、吸水量が多く、葉が大きく茎が太い状態、つまり栄養成長の状態に向かいます。適正ECよりも高いECで給液管理をすると、給水量が少なく、葉が小さく茎が細い、生殖成長の状態に向かいます。
要点:適正給液ECよりも高いECの給液→生殖成長
適正給液ECよりも低いECの給液→栄養成長
【季節に応じた給液EC管理】
では、季節に応じて給液のECをどのように管理すればよいのかについて説明します。
特に注意すべき点は以下の2点です。
① 夏の高温期には気温が高く、日射量が多い。
→蒸散量が多い。
→植物が必要とする水の量が多い。
→給液ECを低めにすることで、根が水を吸いやすい環境をつくり、
能動的吸水を促進する(図3)。
② 冬の低温期には気温が低く、日射量が少ない。
→蒸散量が少ない。
→植物が必要とする水の量が少ない。
→水の観点で言えば、給液量は少なくてよい。
→給液量を少なくしたとき、水は足りているけど肥料が足りなくなる現象が起きやすい。
→給液ECを高くし、少ない給液でも肥料不足にならないようにする。
例:弊社のキュウリ栽培における、季節や生育ステージに応じた給液EC管理
【さいごに】
今回の鶴だよりは、「給液ECの管理」と「植物の吸水」についての内容でした。
RWを用いた養液栽培では、排液を回収してECを測定することで「植物の肥料吸収の状況」を見ることができます。
例:前項の②のように肥料が不足しがちな時期に給液ECを上げた。
→排液ECを測定する。
→「排液EC < 給液EC」ならば、まだ肥料が不足している可能性があると判断。
「排液EC > 給液EC」ならば、植物に必要な肥料を供給できていると判断。
(根腐れなどの要因がECに影響を与えている可能性があることも常に頭に入れて、
リスクマネージメントする必要があります。)
ロックウール栽培のメリットについてはリサーチパーク鶴だよりの第7便でもご紹介しております ( https://www.seiwa-ltd.jp/useful/2930/ )。そちらもご覧いただけますと幸いです。
定期的に給液と排液のECを測定し、水不足や肥料不足になっていないかを確認することが大切です。(少なくとも週に1~2回)
適正ECで管理することで、理想とする樹勢、生育、収量に一歩近づいていくことができます。
最後までお読みいただきありがとうございました!